2020年9月、1920年創業の「づぼらや」 が閉店、その歴史に幕を閉じたことは大きなニュースとなった。東京でも創業230年の柴又の料亭「川甚」、江戸時代に創業の「割烹 武蔵屋」などが続々と閉店。長年地域の食文化の中核を担ってきた老舗の幕引きは、コロナ第4波を迎えてさらなる加速を見せることは間違いない。


 老舗飲食店の主な収入源は、やはり地域の企業の宴会や接待利用。上司が後輩を店に連れていく形で会社をあげて常連となりその経営を支えてきた。
それらの会社が、コロナ禍で忘年会などの会食、接待を伴う営業を回避し、さらに社員の私的な飲み会にも自粛の指示を出している。そもそも、リモート勤務にシフトして出勤している社員が2~3割という会社も珍しくはない。これらの状況は老舗飲食店に大打撃となった。

 ほんの少し前、まだ大阪に外国人が溢れかえっていた時、地域食文化の中核となる老舗が果たしてきた役割は大きかった。「地域の食文化」=「その地域の歴史の深さの証明」であり、また「地域の人々への理解を深めること」につながっていたからだ。それらの老舗が消えゆくのは地域のアイデンティティが消えるに等しく、単に「寂しくなる」というだけのものではない「歴史断裂」の大きな損失だ。

 その途絶えた歴史紡ぐため、昨年末、「日本料理 ゆずな」が西天満にオープンした 。惜しくも閉店してしまった「日本料理 川富」の料理長が、その「川富」が築いてきた『割烹の文化』を継承するために開いた店だ。

「日本料理 川富」は、1944年に『川魚・鰻の川富』として創業、ミナミを代表する老舗割烹として大阪の財界人や芸能人などに長年愛されてきた。それがコロナの影響もあり、閉店の憂き目にあってしまった。そこで料理長として腕を振るっていたのが「日本料理ゆずな」を立ち上げたのが新見文男氏だ。

新見氏(以下敬称略)「料理歴は約25年です。会員制ホテル『グランリゾート淡路島』をはじめ大阪・京都・奈良などの正統派日本料理店で20年修業しました。そして『日本料理 川富』の総料理長に就任させて頂いたのです」

「日本料理 川富」

 その「川富」がコロナを原因として閉店に追い込まれたことは、新見氏にとっても青天の霹靂となった。

新見「緊急事態宣言の折、休業要請の最中に運営会社が突然機能しなくなりやむなく閉店していまいました。昔からのなじみのお客様がしっかりついている老舗ですら安心できない世の中になってしまいました・・・・」

新見「『川富』が残してきた『割烹の文化』がこのまま消えてしまうのは、やはり耐え難いです。ですので、割烹文化の次の30年を担うべく新店のオープンを決意しました」

 これにより『川富』が築いてきた『割烹の文化』を継承しつつ、世界を魅了する日本料理を追求する店「日本料理 ゆずな」が生まれた。 屋号は新見氏の3人の娘の名前の文字からとるなど、氏にとってはまさに我が子同然の思いを込めた店だ。

 入ってすぐ目につくのが一枚板のカウンター席では、躍動感あふれる調理シーンを楽しめる。大人数での食事が難しいこのご時世に1~2人で気軽に立ち寄れるスタイルがうれしい。もちろん顔が差すことを避けたければ、2階にはゆったりくつろげる個室も用意されている。

 新生川富として、古き良きを伝え、世界に打って出られる本当の日本料理の追求する店として、料理の質を落とすわけにはいかない。

新見「まず食材の味を知る為にすべて『生食』してから味を決めていきます。季節やその時の気候によっても味を変えています」

新見「また、花板・煮方・焼き方の役割を明確に分けることによりそれぞれの精度を高めており、お客様に提供する前に花板は『切る』、焼き方は『焼く』、煮方は『味を見る』という、当たり前のことを当たり前にやることを心がけています」

 世間では「蔓延防止措置」の発令でまたもや陰鬱な空気が漂ってはいるが、季節は初夏に向かって少しずつ華やぎを見せている。必然、「日本料理ゆずな」で出される料理への期待感も高まる。その期待に応えて新たに打ち出したのが『 四万十うなぎ 』だ。

 もちろん鰻は川富時代から70年にわたって扱ってきた伝統があるが、『別格に美味い』として全国に名を轟かせる四万十の鰻は、もはや関西で食べられる店はほとんどない。当然仕入れルートもなく、新見氏自ら現地を訪れて仕入れを実現させた。

 現地の養鰻所(ようまんじょ)から活鰻(かつまん) で仕入れるため、非常に鮮度が高い。それを関西ならではの腹開きでさばく。

そして、 一つ一つ丁寧に炭火で白焼きにしている。

熟練の技術で 味を閉じ込めながらパリっと焼き上げられた皮の食感は、得も言われぬ喜びを感じさせてくれる。

 焼いた鰻の骨をふんだんに使ったタレは川富から代々続く継ぎ足しで、他店がどんなに頑張ってもこの味を出すことはできない。

 お土産にもたまらない一品が用意される。煮炊きの名門でもあった川富の伝統を受け継ぐうなぎの肝煮だ。 甘辛さの中にほん のりと苦みの効いたその味は、夏酒の肴としてこれ以上ない逸品といえる。

 さらに現在、「四万十うなぎ弁当」の準備も着々と進んでいる。スタートは4月後半より要予約で。「四万十うなぎ弁当」4,100円、「懐石弁当」5,400円、「ゆずな弁当」3,780円(各税込み)。 この鰻を気軽に弁当スタイルで味わえるのがうれしい。
ともかく、この夏、一度でもいいから「ゆずなの四万十うなぎ」を味ってみてほしい。これぞ日本の夏の味だから。

取材・文 関西グルメブロガーズ編集長 宮本昭仁

店名日本料理ゆずな
住所大阪市北区西天満4-5-4
TEL 電話予約 06-6335-9708
オンライン予約
info@yuzuna-kawatomi.com
営業時間要問合せ
休日 不定休

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